俳優で歌手の中山美穂さんが、亡くなった。突然の訃報により、日本中にショックを与えるなか、メディアによる「取材のあり方」に注目が集まっている。
なかには報道が過熱するあまり、親族への突撃取材が行われるケースも。SNS上では「あまりに失礼すぎるのではないか」と考える視聴者や読者から、その姿勢を問う声が散見される。
ネット上では近年、「迷惑系YouTuber」と呼ばれるジャンルが、それなりに支持されている。話題になっている人物や場所へ、凸(突撃)するスタイルは、マスコミによる過熱報道と通底するように思える。あらゆるコンテンツが等価に扱われる現代において、それらは表裏一体となっているのではないか。
Xでは中山さん関連の単語が相次いでトレンド入り
中山美穂さんの訃報は、2024年12月6日に伝えられた。その日の夜には、大阪でクリスマスコンサートを行う予定だったが、訃報が流れる数時間前に「体調不良の為、公演を中止する」と発表されていた。
各社の初報によると、事務所関係者からの通報を受け、警察が駆けつけたところ、東京都内の自宅浴室で亡くなっていたという。事務所は8日になって、死因について「入浴中に起きた不慮の事故によるもの」だと発表している。
中山さんは1970年生まれで、1985年に俳優デビューした。「ミポリン」の愛称でアイドルとしても活躍し、テレビCMにも多数起用。ミュージシャンの一面もあり、ロックバンド「WANDS(ワンズ)」とのコラボレーション楽曲「世界中の誰よりきっと」(1992年)などのヒット作を世に出した。
知名度が高い人物、かつ54歳という若さでの死去とあって、SNS上には衝撃が走った。Xでは中山さん関連の単語が相次いでトレンド入り。浴室で発見されたとの報道から連想して、「ヒートショックによる心筋梗塞ではないか」と、臆測から断定するような投稿も相次いだ。
なお11日現在、死因について「不慮の事故」より詳細な公式発表はない。
一部メディアによる「親族への取材」に批判の声
当然ながらマスメディア各社も、この訃報を大々的に伝えた。そうした報道の中で、一部メディアによる「親族への取材」が行われ、物議を醸している。なかでも批判を浴びているのは、妹の俳優・忍さんへの取材だ。
いずれも美穂さんの自宅前で行われたもので、12月6日夜には報道陣の前で、目を腫らしながら「遅くまでみなさん申し訳ございません。突然のことで、私も今、お話しできることが何もありませんので、改めまして、お話しさせていただくことができたらと思います」と発言。この光景は、6日夜から翌日にかけて、テレビ各社でも報じられた。
スポーツ各紙(ウェブ版)を見ると、翌7日には、美穂さんの自宅を訪れた忍さんが、葬儀準備を進めているとみられるとの報道が。そして8日には、無言の帰宅をした美穂さんを出迎えた忍さんを「3日連続で姿を見せた」と伝えている。
これらの報道を、家族を亡くした直後の親族への敬意がないと判断した人も多く、SNS上では「マスゴミ」と批判する声がでている。「迷惑系YouTuberと同じではないか」との反応も少なくなく、より遺族の心情に寄り添った報道姿勢を求める意見が見られる。
ちなみに所属事務所は、6日時点で「マスメディアの皆様におかれては、ご家族やご親族に配慮し、過度な取材・報道は厳に慎んでいただくよう切にお願い申し上げます」と依頼文を送っていた。
「過度」の判断基準について、一部メディアとギャップがあったのだろうか。8日には「ご遺族および関係者のプライバシーを尊重するため、取材はお控えいただきますようお願い申し上げます。また、近隣住民の方々へのご迷惑となる可能性がございますので、自宅や事務所への張り込みや訪問もご遠慮くださいますよう、重ねてお願い申し上げます」と、取材そのものを控えるよう念押しした。
倫理観を横に置いてまで、行うべき取材なのか
ネット中心ながらメディア業界に長年、身を置いている筆者としては、冠婚葬祭といった話題が、読者の興味を集めることは十分理解できる。また、忍さんの姿が「絵」になるのではと考える業界人がいても不思議ではない。しかし、「それは本当に、倫理観を横に置いてまで、行うべき取材なのか」との観点に立つと、避けるべきだったと感じる。
訃報のみならず、報道陣が多数押しかけて行われる取材は、一般的に「メディアスクラム(集団的過熱取材)」として扱われる。その多くは、メディア側からすると「公益性があるから」という理屈で、長年正当化されてきた。
しかし、近年では「公益性よりもプライバシーが重要だ」という考え方が、急速に普及しつつある。かつての「有名税」の位置づけも変わり、フィギュアスケート・羽生結弦さんの結婚や、野球・大谷翔平選手の新居をめぐる報道では、著名人でもひとりの人間であるとの認識が広まった。